『この空は・・』
 今日もまたフリーマーケットでガチャガチャでダブった物を売っている拓弥。アトムグッズを求めてやってくる亜希と話込んでしまう。やがて、二千三年の四月七日、アトムの誕生日に彼女は反戦デモに言っていたと言い出した。

 2003年4月7日鉄腕アトムの誕生日。この話を上演したのはこの1ヶ月後のことでした。『この空は・・』を思いついたのが2003年4月5日。アトムの誕生日の2日前です。稽古場で私は言いました。「明後日はアトムの誕生日で、明後日、なにをしていたのか、ということを一ヶ月後に上演しよう」もちろん、劇中に出てくる反戦デモがあちこちで行われるであろうことは知っていましたし、改めてネタ出ししなくても、たぶん、そのあたりにお話は着地するであろうという、落とし所の見当はついていました。『メトロ』は日本の今を描きたい、と言ってはいますが、あまりにもタイムリーな題材になってしまうとニュースペーパーさんがやっている事と変わらなくなってしまいます。今の事件をすぐに舞台に載せる事、が第一義ではないのです。あくまでも、フィクションであり、なおかつ今の気分を代弁しているものでなければなりません。とっかかりとなった『アトムの誕生日』というウソが好きです。物語の中で設定されている日がやってきただけなのです。誕生日といってはいますが、アトムは誕生していません。地球上のどこにも存在していないものの、誕生日なのです。現実はアトムのようなロボットを生み出すまでにはいたりませんでした。2001年に『2001年宇宙の旅』に登場するディスカバリー号のような宇宙船は建造されませんでした。手塚先生の想像力の方が、まだ先を行っていたのです。キューブリックのイメージの方がより豊かだったということです。我々、フィクションを創造する者達にとって、現実よりもまだフィクションの方が先へ、向こうへ行っているということに、少しだけほっとします。